ひたすら写経に励むお爺さん
・8階の共有スペースの机と椅子を1箇所占有して、ひたすら写経(般若心経)に励む84歳の男性が居る。ピースボートに11回乗っているそうだ。いつもこの世の不幸せを1人でしょいこんでいるような無愛想な人だが、「写経するなら船に乗らなくてもよさそうなものだ」と余計な詮索をしたくなるし、写経するならもっと回りの人が楽しくなるような顔をしてほしいと思う。この人も多分、独り身で寂しいから乗っているのだと思われる。ピースボートは孤独で寂しい人の、手ごろな安らぎの場なのかもしれない
厚かましくて恥知らず、自慢話ばかりのいやなおやじ
・8階の共有スペースの机と椅子をワンセット占有し、「2度の脳疾患と両足不随を乗り越え、日本列島離島めぐり○○達成、富士山10回登頂達成」と書いた赤旗を掲げ、旅の記録を綴ったファイルを広げ、色紙まで書いて誰彼となく渡し、全員が見る伝言板に「元気が出る色紙、あと25枚、早い者勝ち!」と書いたメッセージを恥ずかしげもなく貼り出し、自慢話にうつつを抜かすおやじが居る。
・船内のどこにいても会話に入ってきて、いつの間にか自慢話につなげるいやなやつだ。船内の自主企画では毎週、15回に亘って自分の旅行の自慢話をひけらかす席を設ける厚かましさで、辟易する。まるで有名人気取りだ。
あの人は地元に居場所が無いのだと思う。地元の人から見たら鼻持ちならないいやなやつだろう。だから、話を聞いてくれる旅好きな人が大勢居て、優越感と快感を得られるこの船に乗るのだと考えればあの振る舞いに説明がつく。
まるで純愛小説のようなすさまじい人生を過ごした女性
・北海道で看護婦を長年務めた64歳の女性が居る。食堂で一緒になったときの第一印象はミーハーの軽薄なおもしろいおばさんというものだった。ところが、船内で大晦日に「紅白歌合戦」があり、その彼女が悲しい愛の歌を歌ったのだ。司会者のナレーションが気になった。「悲しい別れを乗り越えてエミリー(船内ニックネーム)が歌います」。第一印象と余りに違うのでエアロビで一緒になったときに声をかけ、率直にその疑問をぶつけたところ、晩御飯を一緒に食べながら詳しい話を聞くことになった。
・長い話をまとめるとこうなる。61歳で看護婦を辞めた。何十年ぶりかに高校の同窓会があり、ある男性と再会した。数人で再度集まることになったが、その男性の行方がわからない。やっと探し当てて会ったら、あと3ヶ月の命と判断される(彼女はナースだからわかる)不治の病に冒されていて人目を憚って隠れていた。できるだけ長く生かすべく看護に努め、1年4ヶ月の命を長らえた。彼女は一生独身を貫くつもりだったが、男性の家族から請われ、死ぬのがわかっていて結婚することになった。結婚して4ヶ月で相手の男性は亡くなった。
・話を聞き終えたとき、私はポツッと言った。「気に障ったらごめんなさい。あなたは高校のときからその人が好きだったのではないですか? 高校の同級生、ナースとしての使命感だけで看護したとはどうしても思えない」。彼女はそれに答えて「そうね、そのとおり、やっと自分の正直な気持ちの整理がついた」
絵描きがごろごろ
・船内には絵の達人がたくさん居る。水彩画の先生として乗っている人だけでなく、プロに近い絵描きが数人乗っておられ、すばらしい手本を見せてくださるのだが、うらやましい気持ちで一杯だ
海坊主がごろごろ
・船内には、やたらと日焼けして色が黒く、坊主頭で「海坊主」みたいな人が5人居る。
最初は見分けがつかなかったが、興味を持って接したら、みんな、親しく言葉を交わすようになった
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