北海道の離島紀行
2024年7月
植木 圭二
6月の後半、北海道の離島に行ってきました。その離島とは、北海道民もあまり知らない天売島と焼尻島、
そして奥尻島です。どの島も自然いっぱいで人々との交流もグルメも楽しめて良い旅になりました。
第一章 天売島と焼尻島
█ あまり知られていない天売島と焼尻島
気温23℃の初夏の北海道、私は天売島と焼尻島に行くために日本海沿いの羽幌町に来ました。羽幌は札幌と稚内のほぼ中間にあって、ここから約30km、日本海に天売島と焼尻島があります。この2島に行くには羽幌港から約1時間30分、船に乗って行くことになります。
天売島の人口は258人、焼尻島の人口は171 人で、どちらも一周12kmという小さな島なので、あまり知られておらず、北海道民に聞いても知っている人の方が少ないようです。
天売島、焼尻島に渡るフェリーは総トン数489トンの小さな船で、船名は「おろろん2」となっています。
この船名は“オロロン鳥”という鳥からとったもので、オロロン鳥は絶滅危惧種で日本では天売島にしか生息していません。正式名称はウミガラスですが、オロロン~♪という鳴き声からそう呼ばれています。
【天売・焼尻に行くフェリー「おろろん2」】
█ 天売島
天売島は周囲12kmの小さな島なので、歩いて島内一周できます。
歩いていると天売高等学校という定時制高校があります。人口250人程の島に高校があることに驚いてしまいますが、近くにいた地元の人に訊ねると、今年は7人入学したとのことです。
定時制なので島内で働きながら勉強をしており、若い貴重な労働力になっているのに違いありません。
【天売高等学校】
この島は "鳥の楽園″として有名で、珍しい海鳥が多く生息しています。それゆえ「天売海鳥研究室」と看板が掲げられている家があって、若者が出てきたので話を聞いてみますと、この建物は北海道大学の施設で、学生が泊り込みで海鳥の生態を研究しているとのことです。
私が「オロロン鳥がこの島にいると聞いたけど、見ることができますか?」と訊ねますと、
「数日前に赤岩展望台で見たという情報があります」と言っていました。
天売島の最高標高は184mで、坂道が続きます。断崖絶壁は天敵が近づき難いので海鳥の生息には適していると先ほどの学生から聞きました。
まだ断崖絶壁にはなっていませんが、「黒崎海岸」にはウミネコがたくさんいます。私はこんなにたくさんのウミネコを一度に見たことがありません。鳥の楽園と言われることが十分に納得できます。
【天売島の黒崎海岸のウミネコ】
オロロン鳥が目撃されたという赤岩展望台に到着しましたが、霧が立ち込めており、オロロン鳥どころか10m先の灯台さえも見えない状態です。
その後も濃霧が続きますが、観音岬園地に出てくると霧が少し晴れており、断崖絶壁を見ることができます。しかし海鳥には出会いませんでした。
【霧が少し晴れた観音岬園地】
█ 焼尻島のゲストハウスに泊まる
天売島を歩いて巡った後に、次は4km離れた隣の焼尻島にやって来ました。
焼尻島では若い夫婦が営むゲストハウスに泊まりました。もとは古い家のようですが、小綺麗に改装しています。
その宿の若い女将と話す機会がもてました。彼女の旦那は島旅が大好きで、若いころから島で宿を開くことを夢にしていたので、焼尻島で古民家を自分たちの手で改装して、この宿を開業させたとのことです。彼女も仕事で焼尻島を訪れたことをきっかけに島の生活に惚れて移住を決意したとのことです。
島大好き夫婦で、夕食後は他の宿泊客も加わり離島の話題で盛り上がりました。宿泊客はみな旅の強者(つわもの)で、思いがけない交流の場になりました。
【ゲストハウスの食事処兼談話室】
█ 焼尻島一周
翌日は焼尻島一周です。焼尻島は天売島とほぼ同サイズなので歩いて巡ります。
最高標高は天売島の184mに対して焼尻島は94mということで、焼尻の方が低いために断崖絶壁がなく海鳥もそんなに多くいません。その代わりに牧草地帯が広がっており、日本では珍しいサフォークという羊を放牧しています。
このサフォークの肉が希少で美味いというので、大変人気があり滅多に食べることができないそうですが、フェリーターミナルの近くの食堂で食べられると宿の主人が教えてくれました。
【サフォーク羊の放牧】
島の西端の「鷹の巣園地」から約4km先の天売島がよく見えます。
そこから海岸線をしばらく歩くと「白浜キャンプ場」があり、テントが1張はられています。ここからも天売島が見えます。
このように風光明媚なテントサイトはキャンプ大好きな私にとっては羨ましい限りです。夜は灯りがないから満天の星空が広がり、波の音だけが聞こえてくるはずです。さらにこの島にも熊がいないので安心して眠れます。。
【白浜キャンプ場とテント 海の向こうに天売島が見える】
内陸に入ると、牧草地の他に森もあります。森にはコンクリート製の遊歩道が整備されており、清々しい緑の中を快適に歩くことができます。森には昆虫も多く生息しているので、昆虫好きにはたまらない島のようです。
【ウグイス谷付近の森の中】
第二章 奥尻島
█ 奥尻島
天売・焼尻の次は奥尻島です。
奥尻島は北海道の南西の日本海に浮かぶ比較絵大きな島で、江差追分で有名な江差から約60km離れた沖合にあって約2時間かけて船で渡ります。船の総トン数3631トンということで、天売・焼尻に渡ったフェリーの10倍近い大きさになります。
奥尻島の人口は2236人、面積は焼尻島の27倍もあります。そのため島一周は約65kmということで、港でレンタカーを借りて時計の針と反対方向で島を一周します。
【奥尻港】
█ 奥尻島探索
「宮津弁天宮」という神社があります。陸地から突き出た島のような急峻な小山の頂上に神社が建っています。この神社を参拝するには急峻な階段を降りて、再び登らないと行けません。
【宮津弁天宮】
島の北端にある「賽の河原」には、塔婆があって石が積まれています。元々は海難事故の慰霊の場所らしいのですが、1993年発生の北海道南西沖地震で多くの死者と行方不明者を出したのでその慰霊が主になっているようです。
【賽の河原】
標高369m「球島山展望台」にやって来ましたが、残念ながら霧で何も見えません。天売島もそうでしたが、島の標高の高い部分は霧が発生しやすく、低地に降りると晴れているという島ならではの現象なのでしょう。
奥尻島の東海岸は人が多く住んでいて役所やフェリーターミナルもありますが、反対側の西海岸は平地が少なく切り立っており海岸沿いには大きな奇岩が多く見られます。
【西海岸の奇岩群】
無縁島という島の近くの道端には津波痕跡地点という看板が立っています。看板には「1993年北海道南西沖地震で奥尻島は壊滅的被害を受けた。特に津波は時速500kmという速さで本島を襲い、本地点は津波痕跡高23.3mが示された」と書かれていました。
「うにまる公園」という公園には大きなウニのモニュメントがあります。奥尻名産のキタムラサキウニを模していて120本のトゲが夜にはライトアップされるそうです。
【ウニのモニュメント】
南の青苗地区には地震の被害者の大きな慰霊モニュメント「時空翔」があります。これは実に立派なモニュメントです。
港近くの観光名所「鍋釣岩」は、奥尻島のポスターには必ず出てくるもので、思っていた以上に大きな岩で夜間のライトアップ設備もあります。
【鍋釣岩】
█ 奥尻島の宿
奥尻島の宿「トラベルハウス思い出」は秋篠宮夫妻が宿泊したということで、おそらく島内では一番大きく立派で、人気の宿なのでしょう。
観光シーズンではない時期だったので、観光客よりも工事業者やビジネス客が多く泊まっていました
【トラベルハウス思い出の建物外観】
サンゴの隆起と浸食で出来た山で頂上付近に岩が突き出て屋根のようになっている所があり、珍しいことに岩の隙間から水が湧き出ている不思議な山です。
人気の宿だけあって夕食に出てきた料理は豪華で、島内でとれた新鮮なものばかりが並んでいます。奥尻島はウニのモニュメントがあるくらいなので、何と言ってもウニです。ウニ以外に、ヒラメの刺身、みずだこ、タナゴの焼き魚、焼きイカ、ホヤとナマコなど、食べきれないほどの料理で、どれもみな美味しいのは言うまでもありません。
【【トラベルハウス思い出の夕食 中央手前がウニ】
汁物には、塩漬けの魚を野菜と煮込んだ北海道の名物料理「三平汁」が出てきました。これもいい塩味になっていました。今では北海道の定番料理の三平汁ですが、実は奥尻島が発祥の地のようです。島に流れ着いた松前藩主に島民の三平が御馳走したので三平汁と呼ばれるようになったという伝承があります。
翌日の朝食にはイカの刺身がたくさん出てきました。これがまた実に美味しく、朝からお酒が欲しくなりました。
以上、北海道の離島の旅を簡単に紹介してきましたが、この紀行文では紹介しきれない場所やエピソードなどを記載した旅行記を別途公開しています。
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