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No.294 
伊豆諸島の旅

2022年9月
植木 圭二

 私はここ半年くらいの間で伊豆諸島のほとんどの島に行ってきました。一言に伊豆諸島と言っても有人島が9島もあり、どれも個性があって魅力的で全ての島を紹介したいのですが、今回はそれらの中でも特徴的な3島を紹介します。
 一番近くて行き易い伊豆大島、正反対に最も遠くて行きにくい青ヶ島、その中間にあって魅力たっぷりの神津島です。ある意味では離島ファンの初級、中級、上級の島になります。

■ 伊豆大島
■ 神津島
■ 青ヶ島

 

■伊豆大島


 伊豆大島へは飛行機も飛んでいますが、船の方がポピュラーで竹芝桟橋からジェット船で1時間45分、熱海からは45分で行けます。私は伊豆大島には何度も足を運んでいますが全て船で行きました。島内の交通事情も良く伊豆諸島では一番便利な島になっています。
 伊豆大島と言えば標高758mの「三原山」が島の真ん中にあって、外輪山の上にある登山口までバスも出ているので比較的軽装で登山や火口のお鉢回りも出来ます。登山道は整備されており、山頂まで車椅子でも行けるように舗装されています。
 

【三原山の火口】
 
 映画「ゴジラ」では、ゴジラは三原山の火口に落ちて消息を絶ち、再びこの火口から復活しました。何の因果か山頂付近にはゴジラ岩という奇岩もあります。晴れていればゴジラ岩をバックに富士山も見え、絶好のインスタ映えスポットとして人気があります。
 

【ゴジラ岩 その向うに富士山のシルエット】
 
 また三原山の北側一帯は黒い砂で覆われており、「裏砂漠」と呼ばれています。国土地理院の地図においては日本で唯一「砂漠」と公式に名付けられた場所になります。
 

【裏砂漠】
 
 三原山の外輪山の一角にある「大島温泉ホテル」には、三原山の雄姿を見ながら入浴を楽しむことができる露天風呂があります。ゆっくり浸かって景色を満喫できるようにやや低めの温度にしてあり、そのため内湯はやや高めの温度にしてあるのもよく考えられています。
 

【三原山を望む大島温泉ホテルの露天風呂】
 
 伊豆大島と言えば椿が有名で、島内には野生の椿が多く生息しています。それゆえ大島温泉ホテルの名物料理は「椿油のフォンデュ」です。新鮮な魚介類や野菜、明日葉の葉などを椿油で天ぷらや素揚げで食べる、この島ならではの料理です。
 

【椿油のフォンデュ】
 
 道路沿いに波打つ地層がむき出しになった「地層大切断面」は極めて珍しい光景で、道路工事をしていたら偶然出てきたものです。地表に現れた部分は草が生えてくるので、表面を定期的に削っています。
 

【地層大切断面】
 
 川端康成の短編小説の伊豆の踊子は、伊豆半島へ一人旅に出た青年が旅芸人一座の踊子の少女に淡い恋心を抱く物語ですが、その旅芸人一座は実は伊豆大島の南端の波浮の港からやってきたものです。
 かつての波浮の港は遠洋漁業で賑わい、船員たちの休息と憩いの場になっており、踊子たちはそんな船員たちの間で芸を磨いていたと言われています。
 

【波浮の港】
 
 その芸人一座が踊りで接待をする姿を蝋人形が演じる、踊子の里資料館「みなとや」で見ることができます。
 

【踊り子の里資料館「みなとや」の蝋人形】
 
 

■神津島


 東京竹芝からジェット船で3時間40分、伊豆大島などを経由して神津島に着きます。
 神津島は伊豆諸島のほぼ真ん中に位置して、名前が示すように神様たちが集う島という言い伝えがあります。神様たちは最初に神津島を造り、そして南北に3島ずつ島を造ったと言われており、その意味では伊豆諸島でもバランスの良い島なのです。
 

【多幸湾から天上山を望む】
 
 天上山は標高572m、海抜0mから登るので多少大変ですが、近海を眺めながらの登山も島ならではの味わいになります。
 

【天上山からの眺め】
 
 天上山には色々な風景があります。「裏砂漠」は全く異次元の世界に迷い込んで来たかのような錯覚に陥り、さすがに神様の山だと感じます。伊豆大島にも裏砂漠がありますが、規模では負けますが、こちらの方が独特の雰囲気があります。
 

【裏砂漠】
 
 「ハート池」というハート型の池があって、近くの高台に登るとハート池の向こうに新島、式根島を見ることができます。この光景がインスタ映えするというので若い女性の登山客にも結構会います。
 

【ハート池 その向うに式根島、新島】
 
 登山を終えて下山して、港にある「よっちゃーれセンター」の食堂に入ると美味しい料理が食べられます。この食堂は漁協の婦人部がやっているとのことで、新鮮な魚が信じられない価格で食べられます。写真の金目鯛定食は大きな金目鯛の煮付けに天ぷらや小鉢がついて何と税込みで1000円と言う破格の値段です。
 

【金目鯛定食】
 
 神津島は山だけではなく海でも存分に楽しむことができます。島の赤崎遊歩道には海への飛び込み台が付いていて、夏はここから多くの子供たちが飛び込んでいる風景が容易に想像できます。もちろん飛び込みをしなくても遊歩道だけでも充分に楽しめます。
 

【赤崎遊歩道、飛び込み台】
 
 神津島はバランスの良い島と書きましたが、山と海とグルメだけでなく、他にもお勧めは温泉と星空です。
 海岸沿いにある神津温泉保養センターは男女混浴の水着で入る大きな露天風呂が海辺にいくつもあり、内湯は男女別でサウナもあります。海を見ながら浸かる足湯もあり、様々なニーズに対応している村営の温泉施設です。
 

【神津温泉保養センター 手間が足湯で海岸沿いに露天風呂】
 
 島内は村営バスが港を拠点に運行されていて多幸湾、天上山登山口、赤崎遊歩道、温泉保養センターなど巡ってくれます。
 またこの島は東京都で初めて星空保護区に指定されていて、夜になると島全体が天然のプラネタリウムに様変わりします。街灯は星空観測専用のものを使用しているのでそのような認定をされたとのことです。
 

■青ヶ島


 伊豆諸島の最南端にある青ヶ島は日本でも有数の秘境、渡航困難な島です。本土から直接行くことはできずにまずは八丈島まで行かなくてはなりません。八丈島までの交通の便は比較的よいのですが、問題は八丈島から青ヶ島に渡るのが大変です。
 八丈島から船では約3時間ほどですが、問題は青ヶ島の港は波や風に弱いので接岸が難しいために船の就航率は5割ほどです。土地が狭く飛行場もなくヘリポートがあるだけで、ヘリコプターが1日1便就航していますが、定員9人で予約を取るのは簡単ではありません。さらに観光客が島に渡るには宿の予約そしていないとチケットを売ってくれません。
 

 【青ヶ島の全景 右に港】
 
 私は八丈島まで10時間船に乗り、青ヶ島へも船で渡りました。
 青ヶ島は周囲を断崖絶壁に囲まれており、まるで人間たちを寄せ付けまいとしているかのようです。
 

【青ヶ島の港付近の海岸】
 
 それでも人間たちは断崖絶壁の中でも多少なりとも緩やかな部分に無理矢理に桟橋を造ったようです。ただし防波堤がないので、ちょっと波が高ければ接岸できないのは容易に想像できます。さらに驚くべきことは、私たちの船が着く桟橋の奥に漁船が使う小さな桟橋があって、ここも防波堤がなく、漁船を係留するスペースもありません。そのために漁船は高い場所に陸揚げされ、その揚げ降ろしをするクレーンが設置されています。
 

【青ヶ島の港 手前が定期船の桟橋、奥が漁船の桟橋とクレーン】
 
 この島は直径3km弱の楕円形のカルデラ状の火山島で、周囲は険しい外輪山に囲まれています。そのカルデラ(窪地)の中にも比較的新しい小さな火山があって、島全体が二重火山という珍しい構造をしています。島民はカルデラの中と外輪山の上に住んでいて、民宿も村役場もヘリポートも多く集まっているのは外輪山の上で、そのやや平らな狭い部分に施設が集中しています。
 

【外輪山と二重カルデラ】
 
 二重カルデラの真ん中の火山から熱い蒸気が噴き出しており、その蒸気を利用してサウナや製塩所、そして住民や観光客が自由に使える「地熱釜」という調理用の釜があります。地熱釜の中にはステンレス製の籠があって、その中に食材を入れて蓋をして下のバルブを開くと熱い蒸気が出て蒸すという仕組みになっています。

【地熱釜】
 
 民宿で昼食として頂いた食材を地熱釜に入れて約40分で昼食が出来ました。ラップされた炊き込みご飯のおにぎり、生卵、クサヤ、ジャガイモ、ソーセージなど、全てホカホカで適度の水分があります。
 生卵は茹玉子になっており、その茹玉子やジャガイモには地熱釜の隣の製塩所で出来た青ヶ島特産の「ひんぎゃの塩」をかけて食べます。クサヤは伊豆大島のクサヤに比べて臭さも味もまろやかで食べ易いものでした。それにしてもこんな昼食は私にとっては初体験でした。

【地熱釜の中に入れた食材】
 
 ヶ島村役場のホームページによれば青ヶ島村は日本一人口の少ない村で人口170人、113世帯が暮らしています。少ない世帯数かつ狭い島なので住所には番地表示がありません。全ての住所は“青ヶ島村無番地”という住所表記になっています。
 外輪山の一角には緑色のシート張り詰めたような広い場所があります。島での暮らしは水が大事ということで、このシートは雨水を集める集水場になっています。こんな光景も私は初めて見ました。

【雨水の集水場】
 
 今回紹介しました3島以外、伊豆諸島はどれも魅力的な島ばかりです。 そして伊豆諸島以外にも約300ある日本の島はとても個性的で魅力的です。
そんな日本の島について9月8日19時からリモート講演会で「島の旅」を紹介しますので、是非ご参加ください。
その他、私が訪れた島々については「旅のチカラ研究所」のホームページで旅行記として公開しております。こちらの方も是非ご覧ください。
 


植木圭二
 
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